数年前、マクロビオティック実践者のあいだで、玄米食について大きく意見が分かれたことがありました。その論点になっているのはキレート作用というものです。
玄米食に反対する論者の意見を具体的に述べれば、「玄米に含まれるフィチン酸は、金属イオンと結合して、体内のミネラルを排出してしまう」「玄米を食べるとミネラル欠乏症になる」などでしょう。健康と美容にとても良いイメージのある玄米食ですが、実際のところはどうなのでしょうか。今回は、玄米の成分や効果、そしてキレート作用についてご紹介します。
玄米の成分とその効果
玄米とは、稲刈り後に中身だけ脱穀して取り出したもみ米から、殻をむいたお米のことです。玄米は胚芽やぬか層がついている分、栄養価が高いことで知られています。
白米と比較すると、ビタミンB1は4倍強、ビタミンB2は3倍、鉄は2倍以上とも言われています。食物繊維は白米の約6倍。さらに、便秘を解消して腸の調子を整えるだけでなく、体内の余分な有害物質をも排出してくれる効果があるらしいのです。そのため、生活習慣病やがんの予防、新陳代謝の活性化にも期待できます。
また、胚芽部分には多量のビタミンEがあり、ぬか部分にはリノール酸やオレイン酸が含まれているため、老化防止などの効果も期待できます。
フィチン酸のキレート作用とは
フィチン酸は、ミネラル(特に亜鉛、鉄など)と強く結合してしまう作用を持っており、玄米食を続けるとミネラル不足になるという説があります。
キレート作用とは、フィチン酸が金属イオンと結合し、体内のミネラルを排出することです。フィチン酸はミネラル(特に亜鉛、鉄など)と強く結合する性質を持っていることから、強いキレート作用を持っています。
つまり、フィチン酸を過剰摂取すると、体内のミネラルが必要以上に排出されてしまい、ミネラル不足になると考えられたわけです。
しかし、玄米に含まれているのはフィチン酸ではありません。フィチン酸に複数のミネラルが結合した状態の「フィチン」と呼ばれる物質です。
この「フィチン」と「フィチン酸」を混同した情報が広まったことから、玄米食を続けるとミネラル不足になるという説が出てきたのです。
「フィチン」と「フィチン酸」は全く別の働きをしますが、分子構造上どちらも同じ「IP6」で表記されるため、混同されてしまうこともあるようです。
フィチンはすでに複数のミネラルと結合しており、不足のない状態にあります。そのため、栄養価のある食事をしている健康な方にフィチンが取り込まれても、体内のミネラルと結合したり、排出したりすることはありません。
むしろ、フィチンが元々結合していたミネラルが体内に取り込まれるので、実際にはその分ミネラルが増加する可能性のほうが高いのです。そのため、玄米食を続けてもミネラル不足になるということは、まずありえないと言えるでしょう。
発芽玄米なら大丈夫?
玄米とキレート作用の関係性について調べていくと、「発芽玄米なら大丈夫」という情報も見受けられます。
発芽玄米とは、玄米を0.5mm~1mmほど発芽させたお米のことです。発芽によって栄養価がさらに増加しますし、さらに玄米特有の硬さが減るため、柔らかな食感になります。
発芽をすることでフィチンを分解できる、だから発芽玄米を選ぶべきだという意見もあります。しかし、発芽で分解されるフィチンの量はとても微量です。そのため、玄米でも発芽玄米でも、健康や安全性の面では大きな差はないでしょう。
おわりに
厚生労働省から平成18年度に発表された調査研究からも、玄米自体は安全で食物として問題ないとされています。そのため、玄米食を行ってもミネラル不足になることはありませんし、むしろ玄米は栄養価が高く生活習慣病の予防にもつながる優良な食物です。食品や添加物について、あらゆる情報が配信されていますが、正しい情報をきちんと選別する力を身につけていきましょう。